◇何故メッセージを発しないのか
このインスウォッチも10年の節目を迎えられたという。閉鎖的な保険業界にあって、確かな足跡を残してこられた事に心から敬意を表したいと思う。但し、一つだけ書き手の一人として、また一読者の立場としても腑に落ちない事がある。それは、執筆陣の中に保険会社の方が一人もおられない事である。これは、編集部の方針なのかどうかは分からないが、業界を第三者的な立場(消費者)から見れば、非常にアンバランスな状況ではないかと思う。例年開催されるRINGのオープンセミナーでも感じて来た事だが、肝心要の保険商品の作り手側かつ、代理店制度を維持・管理する送り手側でもある保険会社(製販の統治者)が、壇上に一切出てこない、メッセージを発しないという事は、非常に残念な事だと思っている。
◇内向きで閉鎖的なイメージ
思い出してほしい。壇上には、消費者代表である原早苗さんがおられて、金融審議会の野村先生がおられる。識者でもあり第三者的立場で保険業界を俯瞰されているRINGアドバイザーの森崎さんや、R&Iの植村さんもいらっしゃる。勿論、お客様に一番近いところの代理店もいる。しかし、肝心要の保険会社の方はおられない(観客席には多数いらっしゃったが)。いみじくも植村さんが「欠席裁判のようにはしたくはありませんね」と非常にフェアなコメントをされ救われたが、これは反面、業界外の方から見れば全くの〝茶番〟と捉えられる危険性もある。お客様のためにどうする、こうする言ったって肝心の保険会社が、どう考えているか分からないじゃないか、と。この内向きで閉鎖的な状況が、消費者側から見れば、益々不信感の根っこになるのではないかと、私は危惧している。
◇事業者は消費者を見ていない
その不安が現実となったのは、8月28日付けの日経第7面・原早苗さんの記事である。「事業者は、金融庁側ばかり見ている。金融庁の監督や検査も事業者を見ており、消費者の方をあまり見ていない。横並び体質もある。金融機関の合併が多いのは似たもの同士だから。競争を促すための法改正をやってきたが、競争は起きていない」「食品や電気製品など他の業界はトップ層が消費者問題に気を配り関心を持っている」販売勧誘のトラブルに関しては、主に生保商品の投信や変額年金を取り上げておられたが不信の根っこ(問題点)は、共通なのだと思う。その根本的原因は、冒頭の「事業者は消費者を見ていない」というコメントに尽きるのではないか。一度貼られたレッテルは中々剥がせないだけに、非常に厳しい立場に追い込まれたような気がするのは私だけであろうか。
◇お客様の疑問に答えられるか
現実問題に立ち返れば、来年自動車保険料が上がるという。「どうして上がるのか」「合併するのにどうして保険料が下がらないのか」「高齢者の事故が多いというが、その根拠を示せ」こういったお客様の疑問に、誰が答えを示すのだろう。これを決めた(決める)のは保険会社である。我々代理店には一切相談されていない。答えを持っているのは保険会社である。では仮に消費者団体からその理由を具体的に示せと、申し込まれた場合、保険会社のトップ(または責任者)は、壇上に上がる決意と覚悟はあるのだろうか。まさか、その時だけ「説明をするのは代理店の役目ですから」といった問題点のすり替えや「代理店が介在するから高いのです」などと嘯(うそぶ)かないで頂きたいが・・。私達代理店も、今迄のように「保険会社が勝手にやって」では済まされない、非常に厳しい立場に立たされるのは確かである。
◇見えてこない保険会社の顔
では、代理店は保険会社の〝代理〟あるいは〝盾〟として機能するのだろうか。もうそれは、委託契約としては存在するかも知れないが、現実的にはあり得ない話しだ。「誰から保険料を頂いているのか」それは、お客様からである。消費者団体が問題とするのは、仮に料率算定会で基準料率が出たとしても、それを各社の経営判断若しくは経営努力により、「当社は据え置きます」逆に「値下げします」といった保険会社が何故出てこないのか?そういった事に対する不満や不信感なのだろう。それこそ、全社一斉横並びで「値上げ!」の方向に向かう旧護送船団方式への批判と言ったらよいだろうか。その辺が、先の原さんの指摘された「事業者は消費者を見ていない。横並び体質。競争は起きていない」のコメントに繋がるのだろう。
◇正しいメッセージを
今回のテーマは、一代理店としての範疇を超えているが、では無関心でいられるか、と言うとそうではない。非常に大事な問題である。保険会社の名誉の為にも言っておくが、決してお客様を蔑ろにしている訳では無い。真面目に取り組んでいる事も重々承知である。但し、残念なことに、そのメッセージが正しく伝わっていないのだ。言うまでも無く、消費者保護政策に舵を切られた現在、保険料を支払って下さるお客様のご意見・ご要望を無視して、商売が成り立つ訳がない事くらいは誰でも知っている。
ならば、そのメッセージなり考えなりが正しく伝わる努力と機会を是非、保険会社には作って頂きたいのだ。このインスウォッチでも良い、またはRINGのオープンセミナーでも良い、何かのメッセージを発して行かないと、保険会社だけではない、この業界そのものが〝反消費者業界〟のレッテルを貼り続けられる危険性がある。それは、この業界に誇りを持って従事している者にとって最大の屈辱であり不幸である。
皆様も同じお気持ちではないでしょうか。
保険代理店専門メールマガジン【inswatch】
2009年8月31日 Vol.474号掲載
http://www.inswatch.co.jp