◇消費カテゴリーにおける保険商品の位置づけ
一度、生損保問わず、保険会社のトップならびに商品開発関係の方に、お伺いしたいと思っていた事がある。それは保険商品とは、消費カテゴリーの中で、どの分野に属しているのか?という事である。有体に申せば、保険会社は、自分達の商品をどの分野に位置づけているのだろう。消費者保護やお客様第一主義と叫ばれ始めて久しいが、保険会社としては、どんな消費者イメージ(お客様像)を掲げて商品を開発しているのだろうか? 生保と損保、その商品構成に違いはあるにしても、最近思うことは、保険会社の提供する商品と、お客様の求める商品との間に微妙な〝ズレ〟が、生じているのではないか?という事である。
◇自動車不況から見えてくるもの
例えば自動車保険。自動車産業やモータリーゼーションの発展普及と共に、損保の主力商品として成長してきた事は間違いない。それが、近年若者の車離れや、昨今の世界同時不況前後あたりから、自動車の製造ならびに販売が急転直下し始め、あのトヨタでさえ、09年決算では、営業赤字に転落するという。そんな背景から、買い控えが益々強くなり新車が売れない、仮に売れたとしても大きな車から軽自動車への買替えが多くなり、保険料単価が下がる。若しくは、今まで複数あった車が1台になる。もっと厳しくなれば、車そのものを手放す、保険の解約=中断が激増、といったような事態が、日常茶飯事に起こり得るのが今の現状だと思う。
◇消費指向のパラダイムシフト
そこで、冒頭の疑問ではないが、一体自動車とは、どの消費カテゴリーに属するのか?という事である。個人的考えの差はあるだろうが、一般的には「耐久消費財」として位置付けられるのではないかと思う。という事は、一度買ったら中々買い替えはしないという指向性を持った商品といえよう。反面、何百、何千万もする車に、大枚をはたいても惜しくないという「趣味性の高い消費財」という見方も、一方で出来るとは思うが、それも段々少数派になって来ているように思える。正に、今回の自動車不況は、昨年大問題となったガソリン価格の異常高騰と相まって、お客様に対し、強烈な〝負のコスト意識〟を植え付けてしまったのではないか、と私は思う。利便性は代え難いが、自動車を持つこと自体が〝リスク〟であると。
◇お客様が見捨てる時
つまり、景気悪化に伴う生活大不況によって、自動車に対する「夢」や「憧れ」のイメージを、消費者自らが、捨てる決意をせざるを得なくなった、と仮定すれば、自動車の原点である〝走れりゃそれで十分〟と、みんな割り切って、考えだしたのではなかろうか。はたまた、表現は悪いが、自動車メーカーの作り上げてきた〝良い車に乗って豊かな生活〟の洗脳教育(呪縛)から解放されはじめた、といったら言い過ぎだろうか。「車検がくるから」「下取り価格が下がってしまうから」などどいう、買替えのキーワードに、全く関心を示さなくなったとしたら、自動車業界に携わっている方々は、恐怖であろう。それが、モロに損保業界にも波及するのは火を見るより明らかなのだ。それも、じわじわ・・・と。
◇イメージ消費戦略からの脱却
さて、今回のテーマである、我が保険業界の消費カテゴリーの位置付けであるが、皆様は、どのようにお考えになるだろうか。先般、損保再々編の口火を切った三社経営統合に関しても、お客様のホンネ・関心は、統合した事によって、どれだけ保険料が下がり、サービスが向上するのか?という部分であろう。間違っても、「業界NO1の会社が出来て安心だ」などとは露にも思っていないのである。その期待に今後どうやって応えていくのか? 片や、生保においては、元々「一生涯の保障」という無形の耐久消費財を売っているのにも関らず、CMに見られるようなイメージ消費戦略から脱し切れていない部分は、今後大きな経営課題になるだろう。イメージではなく、中身で勝負しなければ、大きなしっぺ返しがくると思う。
◇お客様の本当の声
「お客様の声を商品に活かしました」そうパンフレットに堂々と謳っている保険会社が多数ある。それでいながら、お客様にとっては(どうでもよいような)タレントを起用し、多額の広告宣伝費を使っているケースが多々見受けられる。お客様(代理店も)としては、そんなものにお金を使うんだったら、もっと保険料を安くして欲しい、もっと商品自体を良くして欲しい、と本気で思っている筈である。その〝お客様の本当の声〟に、今後業界はどのように向き合っていくのだろう? そろそろ、保険会社も、今回の金融危機を契機に〝対前年比〟の呪縛から脱却し、ブレの無い、本当に地に足の着いた丁寧な経営に転換する好機ではないだろうか。
保険代理店専門メールマガジン【inswatch】
2009年2月23日 Vol.447号掲載
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