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大災害発生時の保険代理店の経験に学ぶ

◆ 平成15年7月26日(土)発生・宮城県北部連続地震の概要

まず、今回の宮城県北部連続地震の概要ですが、12/5現在のデータで全体としての住宅被害合計は15,919棟、内訳として全壊1,247棟、半壊が3,698棟、一部破損は10,974棟、つまり一部破損が全体の68.9%を占めており、殆どの被災者は一部損壊の認定を受けたという事になります。
その中でも地震保険に何割が加入されていたかというデータは未だ公表されておりません。被害が特に集中した矢本町、河南町、南郷町、鳴瀬町はJA共済の加入率が非常に高い地域で、マーケットシェアとしては80%強占めていると考えられます。また、地震発生の時間帯が土曜日朝の7時13分(殆どの家庭で朝食時)という事を考えますと、火災に因る被害が一件も無かったと云う事実は、阪神淡路大震災と比較して際立った結果ではなかったかと考えられます。
その要因として、4町とも都市ガスが未整備であり、殆どの住宅がプロパンガスを使用していたという所にあるのではないかと推察しております。

◆ライフライン寸断でも立ち上がるシステム

その中で、地震発生直後に先ず向かったのは自宅隣にある当社事務所でした。
地震の影響からか当地域も既に停電になっておりました。
当社の顧客データベースシステムの心臓部であるサーバーには、停電時でも半日は作動出来るようにと、無停電装置(充電器)を別途配しております。
そのお陰でいつも通りシステムを立ち上げる事が出来ました。
と同時にバックアップ用の40GB・ハードディスクを取り外し、頑丈なアルミアタッシュケースに入れて自宅の一番安全な場所に保管いたしました。
(データのリスク分散完了) と、ここまで来て「何で、そのデータなんとかというものが地震と関係あるの?」と皆様は思われたかも知れません。

◆データベース vs 紙ベース

当社は損保5社、生保5社扱いの乗合代理店です。
一件のお客様に数社の保険商品をお奨めしている関係上、どうしても保険会社のシステムだけではきめ細かい対応は出来ない悩みを抱えておりました。そこで、その壁を乗り越えるべく、地元のソフト会社との共同開発で顧客データベースシステムを構築したのでした。データベースは、地区別・職業別・職場別・保険会社別・保険種目別・保険種類別等々、切り口さえ変えれば如何様にでも検索出来ます。
たとえ法人や一世帯のお客様から何百件、何千件の各社にまたがる複数契約を頂いていても、一瞬で合計件数と合計保険料を検索する事ができます。
多分、今回紙ベースで保管・契約確認していたら、探すだけでヘトヘトになってしまっていたと思いますし、下記述べるような迅速且つ正確な動きが、出来なかったと思います。
それから保険会社のWEBオンラインシステムに依存していれば、このような一秒を争う非常事態の時には全く繋がらず、途方にくれていたことでしょう。

◆正確な情報収集と冷静な判断力

当社の支払いの手続きが早かった理由挙げてみました。

  1. 地震が起きた時点で、当社の顧客データベースシステムの中から被害の大きかった矢本町、河南町、南郷町、鳴瀬町で地震保険をご契約頂いているお客様を抽出いたしました。(約一秒で検索)11件ありました。
  2. そのデータを基に午前中に巡回ならびに被害確認をする事に決定。
    何故午前中かというと、午後になればなるほど消防署や自衛隊、野次馬など交通渋滞を発生するだろうという予想で、それは後程的中いたしました。
  3. 石巻地区については午後に回すと決めました(件数が多いのと被害が極小)
  4. 豪雨の中をスーツの上にカッパを着て巡回しデジカメで撮影、お客様へは「落ち着く事」「現場写真を撮ったので安心」「査定が来るまで業者には見積り依頼をしないように」諸注意事項をゆっくり説明し励ましました。
  5. 事務所へ帰還、直ぐにメールで被害者リストを作り保険会社SCへ詳細を報告、メールがダメな所は、それを印刷して各社へFAXで送りました。(電力は回復)
このレスポンスは早かったです。MS社は14:11分に事故受け付け完了とのメールと電話が入りました。
外資系A社もほぼ同時に連絡が入りました。後で知った事ですが、殆どの代理店さんは月曜日に事故報告されたそうです。
当社が、とにかく一番早かったとの事。それで対策チームの編成をする段階で、月曜日朝一番の調査対象に組み込まれていたとの事です。
この時点で当社のやるべき事は殆ど終わっていたといっても良いでしょう。

◆地震の査定現場から得た知識

現場の査定には、お客様の代理人として立ち合わせて頂きました。
また鑑定人さんからも沢山の事を実地で学ばせて頂きました。

  1. 建物の鑑定については、基礎部分の亀裂がポイントだと思いました。
    木造と軽量鉄骨でも査定基準が違う事も勉強になりました。
  2. 半壊と全壊の定義は非常に難しいと思いました。但し、今回各自治体の罹災証明書の発行は早いと思いました。
    罹災証明書で最終的に納得された方も多かったと思います。
  3. 家財道具の認定が勉強になりました。
    例えば、プラズマテレビ50万円、量販店で買った5万円の25インチテレビお客様にとっては価値観は全く違う筈なのですが、テレビはテレビという事でポイント制で査定されてしまいます。備前焼のお皿 ウン万円、ダイソー百円ショップで買ったお皿、これもお皿はお皿で処理されてしまいます。
    これはお客様の価値観としてはとうてい受け入れがたい面もあり、私としても大変苦慮した部分でした。
  4. 自動車の車両保険についてはもっと大変で、瓦が落ちて傷ついたり建物につぶされて全損になったとしても救われないということを、説明していない代理店さんが多かったようで、中には事故速報を平気で保険会社に送って来られた代理店さんもあったようです。
    地震担保特約については、当社では年間2,000円程度の負担で済む事から、結構すすめておりました。
  5. 外構について・・・田舎は立派な門構えの家が多い事から、これらの被害も大変なものでした。
    これも地震保険の対象外ですから被災者の心情は察するに余りあるものがあります。
  6. 今回の連続地震の査定については、かなり幅を持った支払いをしていると思いました。地震に関しましては、100%国の再保険で回収出来るので ・・・というのも大きな理由かと思いました。
    JA共済の支払いも同様だったようです。
◆お客様から求められるもの

調査中にも震度5クラスの余震が数回起きました。
78歳の女性のお客様は、その時に私の手をしっかり握ってきました。
「大丈夫!心配無いですよ」と励ましますと
「あなたの顔を見てるだけで安心したわ、ありがとう、ありがとう」と言って下さいました。
何も特別な事が出来る訳では無いのですが、一件一件お客様の安否を確認させていただく事と、被災し心理的ショックを受けているお客様を先ず安心させる事が如何に大切かを学ぶ事が出来ました。
こういう時の人間の心理と感性は、普段の数倍研ぎ澄まされているものです。
つまり、自分の事を真剣に思い、考えてくれている人の心根が手に取るように判ってしまうのかも知れません。おどおどしたり、あいまいな説明や自信の無い態度は、余計にお客様の心を傷つけてしまいます。何よりも、代理店との信頼関係を損ねる致命的な問題へと発展しかねません。お客様が今何を一番不安に思っていらっしゃるか、しっかりと聞かせて頂く事が最も重要なポイントなのかも知れません。

◆今回の地震から学んだこと ~ お客様の為に何が出来るか?

  1. 顧客データベースを始めとするIT技術は、お客様や代理店を守ってくれる有益な道具である。
    情報を制する事がお客様を守り信頼を掴む事に繋がる。
  2. 現場に着いた時には勝敗(お客様の評価)は決している。
    如何にお客様の事 (契約内容・家族情報など)を知り尽くしているかがポイントである。
  3. お客様の一番近くにいるのは代理店である。
    内側をデジタルで武装し、外側を温かいヒューマンタッチで接する。
    お客様の情報をスタッフ全員で共有し、細やかな要望・期待にも応える事が出来るのが代理店である。
    保険会社はお客様の事までは解からない。
  4. よい保険商品を買って頂く事に全精力を傾ける事、商品の性能以上の支払い・サービスはない。
    (何だかんだいってこれが一番重要かもしれません)
  5. ロとして保険商品の勉強と研究は最低限の務めである。
◆代理店の存在価値 ~まとめ

私はいつも自分自身に問い掛けます。
「どうして、お客様は当社に契約して下さったんだろう?」
「何が良くて取引きして下さったんだろう?」「自分達の存在価値は?」
2004年には、いよいよ銀行の生損保窓販全面解禁となります。
お客様に一番近い方々(大組織)の真打ち登場です。
大資本と顧客情報網をバックに、そうとうお客様に食いこんで来るでしょう。
中小企業マーケット主体の方々にとっては本当に脅威であると思います。
そして、もう一つのお客様に近い組織は、ディーラーを始めとした自動車業界です。それも自由競争という荒波に揉まれ、乗り越えて来られた、したたかな戦闘集団です。やっかいな事に、この二つの組織は我々プロ代理店が扱えない独自の保険商品を武器に勝負をかけてくるでしょう。
その時にお客様が選ぶのは・・・。(選ぶ権利はお客様にあります)
その時に何をもって自分自身の代理店としての存在価値を問うのか?
今こそ「お客様のために何が出来るのか」をしっかりと確立しておかなければならないと思います。方法論は其々違っていても、「必ずやってくる」という心構えと、予想される事態を早く掴み、油断無く準備して行くことが最も大切であると考えます。それは今回の、大地震に対する防災の心構えにも通ずる事でありましょう。
2004年(平成16年)1月15日 保険毎日新聞・第5336号 代理店版に掲載